哦,是要原著小说啊,那个作者确实是城平京的说,小说偶有,不过不全,另外还是日文版的(原著嘛^_^),先贴一张楼主看看,如果想要的话偶继续贴后面的(偶看过一些,不算太难,不过比较耗时间)
(問題編)
城平 京
「誰、これ?」
あたしはおじい様の寄越した写真を二秒ほど見つめてから言った。
「鳴海清隆。警視庁の刑事じゃ。階級は警部、若いのにたいしたもんじゃろう」
おじい様は書斎の高い椅子に座り、しみじみと言う。
「少し前に彼の手腕で窮地から救われての、まさに水際立った智略と言うか。刑事なんぞにしておくのは実におしい」
「で、こいつと私がどう関係あるの?」
「うん、そこだ。彼には我が小日向グループの一員になってもらおうと思う」
小日向グループと言えばくどくどしい説明は不要だろう。鉄道、デパート、不動産、マルチメディアに海運業、全ての産業、政界に強力無比な影響力を持つコングロマリットのことだ。日本人の三十パーセントの生活は小日向に握られてると言って大げさじゃない。で、あたしはそこのひとり娘。お嬢様ってことだ。
「そりゃ構わないわよ。だいたいグループはおじい様のものだし、あたしが反対したってどうにもなんないでしょ」
「おお、そこまで理解してくれてるのなら話は早い。わしはこの鳴海清隆にグループの全指揮権を譲ろうと思っておる」
あたしは耳がどうにかなったかと思った。
「ちょっと待ってよ! 将来の小日向グループはあたしのものでしょ!」
「うむ、そういう話だったな。でもだめじゃ。わしは彼が気に入った。何としても彼にグループを統括してもらう」
そんな、話が違う! 怒鳴ろうとするとおじい様はもっと恐ろしいことを言いだした。
「わしは小日向に新しく有能な血を入れたい。最近の小日向はどうも秀才官僚ばかりが増えて自家中毒を起こしそうじゃ。そこで鳴海清隆なんだ。彼のDNAが小日向の血と混ざればこの膠着した血統が一新され、きっと優れた子孫が産まれるぞ」
「DNAが混ざるって・・・まさか、おじい様」
今現在、小日向の直系で女の子はあたし一人。
「そうじゃ。お前は将来この鳴海清隆と結婚し、子を産むのだ。お前はまだ十六だな。とりあえず婚約だけにしとこうか。これでグループも安泰よ、かっかっか」とにかくおじい様の気まぐれのおかげで、あたしは恋愛の自由も、将来手に入れる権力もいっぺんに失っちゃったのだ。
改めて自己紹介から始めよう。あたし、小日向くるみ、十六歳。小日向グループ総裁小日向紋十郎の孫娘だ。後々のグループ指揮を期待されている才色兼備のスーパーお嬢様ってわけ。はっきり言ってあたしに不可能はない。全ての望みをかなえてきた奇跡の美少女なのだ。将来は何万という人間を引き従え、選りすぐりの好みの男性と結ばれて幸せの絶頂! ってやつに到達する予定だった。でもおじい様にあんなことを言いだされては!
いくらグループのためだからって恋愛にまで干渉する? それになによ、グループはあたしのものじゃない。それをどこの馬の骨ともわからない刑事なんかに譲るなんて!
第一、有能な血なら十分あたしにあふれてる。よそから持ってくる必要ないんだからっ。
あたしはそんなの認めない。きっと実力で恋愛の自由も権力も守ってみせる。
だから今、あたしは午後も六時を過ぎ、警視庁の廊下をげしげし歩いてる。そいで捜査一課のドアを見つけると思いっきり蹴り開けてやった。
「鳴海清隆って奴を出して!」
中にいた連中はぽかんとあたしを見た。殺人捜査を専門にする連中にしては冴えない様子だ。その時、一人の女刑事が作り笑いまるだしであたしに近づいてきた。
「お嬢ちゃん、何の用か知らないけど、人を訪ねるには時間と場所と言葉づかいと行動を選びなさいね」
「おばさんに用はないの、鳴海清隆を出して」
「二十代前半の女性をおばさんと呼ぶものじゃないわよ」
「あたしより十近くも上じゃない」
女はあからさまにむっとするとあたしの襟首をつかんでつまみ出そうとする。うっ、きゃしゃな体つきの割にけっこう腕力がある。
「少年課は下だから、そっちに行ってちょうだい」
「こら、離せ! あたしは鳴海清隆の婚約者なんだからねっ!」
そう叫んだら女は止まり、部屋の中の連中もあたしに注目した。女刑事はあたしの襟首をつかんだままじろっと尋ねる。
「あなたいくつ?」
「十六。日本じゃ一応女子高生」
アメリカで大学を出ちゃってるけどね。高校は社会勉強ってことで通ってるのだ。
女はやおらあたしの首を小脇に抱えるとぐいぐいと部屋の奥にひきずっていく。小日向のお嬢様をなんて扱いだっ。
「警部、十六の小娘にいったい何やらかしたんですか?」
女は鬱陶しそうに言う。
その男、鳴海清隆はソファにころがって気持ち良さそうに熟睡していた。どう好意的に見ても有能とは思えない。女の呼びかけに応える様子もなく、優雅に寝息を立てている。こういう人物はバカか大物かと言われるが、たいていバカである。
どうするのだろう、と女刑事を伺うと、すうっと息を吸い込んで鳴海の顔面に蹴りを三発ほど見舞い、片足でソファごと引っ繰り返した。きゃ、ばいおれんす。
「未成年に手を出すなんて、ことと次第によっちゃ懲戒免職ですよ。結婚して責任とりゃいいってもんじゃないんですから」
とんでもなく大胆な方法で床に落とされた鳴海はうなりながら起き上がる。
へぇっと驚くくらい手足が長かった。今時モデルでもこれくらい雰囲気のある体つきの人っていないかもしれない。これは美点だ。
「羽丘、お前はどうしてそうやることなすこと暴力的なんだ」
鳴海が心外そうな口調で言うと、羽丘と呼ばれた女刑事はふんと答えた。
「女だてらに捜査一課を勤めようと思ったら少しは荒っぽくなります」
「だからって上司を足蹴にするか?」
「尊敬する上司にはしません」
部下のひねくった厭味に鳴海は頭をかき、ソファに座りなおした。
「それより警部、この小娘をご存じですか」
「小娘って呼ぶな。あたしは小日向くるみ、いい加減手を離してっ」
女刑事の手を振りほどき、あたしは鳴海をびっと指さしてやった。
「あたしはあんたが婚約者だなんて認めないからね!」
鳴海はしげしげあたしを見つめ、おお、という具合に手を叩いた。
「例のお嬢さんか。うん、私も認めた覚えはないな。あれは君のじいさんが勝手に進めたことだ。実際こっちも弱ってる。これでも女性の趣味はうるさいんだ」
迷惑そうに手をふってみせた。でも日本男子の九十七パーセントはロリコンで美少女好きに決まってるのだ。喜んでないはずがない。あたしとの結婚を聞いてきっとあんなことやあぁんなことをするのを想像したに違いないのだ。誰が信用するもんか。
「あたしはあんたなんかだいっ嫌いだからね」
「初対面でそう言われると面白くないが、この際甘受しよう。きみの方からあのじいさんを説得できないのか?」
「できれば苦労しないわよ。おじい様の命令は絶対だもの」
あたしがどんな奇跡の美少女でも、おじい様を敵に回したらこの世じゃ生活できない。鳴海清隆だって同様だ。
「あの、警部。話が見えないんですけど」
羽丘刑事が口を挟む。
「私も詳しい事情はよく知らないが、このお嬢さんと結婚して小日向グループの総指揮をやらなきゃならないはめに陥ったんだ」
「ああ、それはおめでたいですね。捜査一課一同、喜んで送り出して差し上げます」
いつの間にか周りに集まっていた刑事達がいっせいにうなずいた。鳴海は憮然としてあたしを見上げる。
「どうにかなんないかな」
どうにかするためにあたしはやってきたのだ。
「ひとつだけおじい様が条件をつけてくれたわ。そのまま伝えるわね。『まぁ、わしとて鬼ではない。よし、こうしよう。要はお前が鳴海清隆より優れておれば、わざわざ彼の血を小日向に入れることはない。証明してみるがいい、鳴海清隆を出し抜いて彼の担当した事件を解決してみせるのだ。すれば命令を取り消してやるぞ、ひょ、ひょ、ひょ』」
最後は『そんなことはできっこないぢゃろうがな』という余裕の笑いだ。
「ていうわけ。わかった?」
周りは静かだった。女刑事は目を丸くしていた。
「わかった。きみと私で知恵比べをして、きみが勝てばいいんだ」
「そーいうこと。だからあなたのタッチする事件には全部つきあわせてもらうからね」
こいつより先に解決する気なら事件着手、情報収集で遅れをとってはならない。これからは捜査につきっきり。あたしは今日から一課の捜査員になるのだ。
「警部! そんなの許されると思ってるんですか! 一般市民ですよ、未成年ですよ!」
女刑事が噛みついた。対して鳴海はというとのんきに、
「ま、いいじゃないか。小日向グループのお嬢様なんだから。その辺りの違法は上の方でもみ消してもらおう」
「でも警部! こんなの連れ歩いても足手まといですよ!」
「あ、言ったわね! あたしがその気になれば迷宮入り事件のひとつやふたつ、あっという間に解決なんだから!」
「あのね、警察の捜査はそんな甘いもんじゃ・・・」
あたしが言い返そうとすると、鳴海が間に割って入った。
「邪魔かどうかは使ってみなきゃわからないだろう。それに男臭い捜査一課に可愛いお嬢さんがいるのはいいことだ」
まわりの刑事がいっせいにうなずいた。そりゃみんな男だもんね。ポニーテールにミニスカートの美少女はたまんないでしょ。制服でも着てようものなら向かうところ敵なしってなもんだ(男ってこれだからイヤ)。
紅一点、羽丘刑事がまだ文句をたれようとしていると、電話が鳴った。
「南方晴六氏の邸で変死体が出たそうです」
鳴海はその報を聞くとあたしの背中を叩いた。
「さっそく事件だ。頼むよ、お嬢さん」
わかってるっ。あんたとなんか誰が結婚してやるもんか!
鳴海清隆は世間並みよりずっといい男だった。背は高い、足は長い、顔も合格。年齢は現在二十八歳。干支の分だけあたしより上だ。でも刑事というには小ぎれい過ぎるし、なんだかたった一度の人生を腰掛け半分、スキップ踏んで終わらせようとしてるみたいないい加減さが気に入らない。ぶさいく、無能、でぶちん、熱血漢てのも気に入らないけど、こういうとっぽい奴も嫌いなのよね。
対して鳴海の部下。羽丘という女刑事は、手は早いけどけっこう真面目で固い女性だ。あたしと違ってお顔を化粧でごまかさなきゃなんない年頃だけど、スタイルは悪くないし、ショートカットの髪は似合ってるし、美人と言っても通用するだろう。これで融通がきけば少しは好意をもってあげられるんだけどね。
で、この二人、ひどく仲が悪いらしい。上司を足蹴にする部下も部下だけど、足蹴にされてろくに怒らない鳴海も鳴海だ。行きの車でもやれ居眠りをするな、日頃の行いが悪いからこんな小娘を押しつけられるんだ、と部下に説教されて平気でいる。それだけじゃない。鳴海は一課の皆から嫌われてる。おじい様もどうしてこんな奴を気に入ったのかしら。
あたしは羽丘刑事にぐちぐち文句を重ねられながら事件の起こった場所、南方晴六の牧師館みたいな邸に連れられてきた。私の記憶によると南方晴六と言えば有名な建設業社の社長だ。関係省庁にうまく取り入って財を築いた典型的な醜い成り金。
その晴六さんはでっぷりした体をリビングの椅子におさめ、悄然とした顔つきで肩を落としていた。
「クラゲがお嬢さんを殺したとは、いったいどういうことです?」
羽丘刑事が疑わしげに尋ねる。見るとリビングの壁際に水槽がひとつ置いてあって、中で妙な色彩をしたクラゲが一匹泳いでいた。
「何度も言ったじゃないか! あのゾルゲクラゲが笹子を殺したんだ! あのクラゲが笹子の体に瞬間移動して、ああ! あれが幸運を呼ぶなんて嘘だったんだ、現にわしは奴に刺されてひどい目に遭ってるし、政界への根回しもうまくいかなくなったし、わしは破滅だ、もう会社も人生もおしまいだぁ!」
晴六さんは錯乱した声をあげて薄くなった頭を抱え込んだ。羽丘刑事は辛抱強く事情を質そうとしている。他の捜査員も慌ただしく動き回り、指紋採取、使用人への尋問、事件発生時に居合わせた晴六さんの秘書に当たっている。そして鳴海はというと、そんな同僚を尻目にクラゲの浮かぶ水槽の前でぼうっとしていた。
「そのクラゲがどうかした?」
「この事件の凶器だそうだ」
鳴海がちょいちょいと水槽を叩く。
気味の悪いクラゲだった。そんなに大きくない。お碗を逆さまにしたみたいな頭の部分の直径が二、三センチ。体長は頭みたいなところから伸びる四本の足状のものを入れても五、六センチだろう。頭の縁からは糸みたいなものがいっぱいぐるっと垂れていて、水に揺れている。この姿をどう表現すればいいだろう。うん、原始的な火星人だ。
「名前はゾルゲクラゲ。腔腸動物の中でも刺胞動物に分類される。形からいくと鉢クラゲ類だろうな。現在世界で四匹しか捕獲されていない」
鳴海はあたしに向かってうんちくを語る。
「生態、棲息地、発生経緯、全てが謎に包まれたクラゲでね。研究者の間でも不思議がられてる。ミクロネシア沖で発見されたかと思ったら、南極の氷の下でたわんでいたっていう目撃例もあるくらいだ。クラゲの飼育っていうのはかなり困難でね、うまくしないと死んでしまうか、よくても弱々しいものに育ってしまう。それに引き換えゾルゲクラゲは生命力が強くてね、熱帯魚用にセッテイングされた水槽でもこの通り肉厚で健康的に生きていられるんだ」
クラゲの健康状態を何で測るか知らないけど、水槽の中のそいつは確かに元気そうだ。ゼラチン質で見るからにねらねらして触ると粘液がまとわりついて手が腐臭を放ちそうなゾルゲクラゲは水槽のエアーに流され、あたしたちの前で踊るようにくねった。
「でもすんごい色ね。クラゲってふつー、半透明の白っぽいんじゃないの?」
「世界の海には緑や赤や茶色のもいるな。でもこいつみたいなのは特別だ」
ゾルゲクラゲはしま模様をしていた。それも黒と黄褐色の横じま。蜂か女郎蜘蛛かっていうくらい毒々しい色彩だ。もっとも分かりやすい、どきどきするような警戒色。
「ついでにこいつは暗いところだと、このしまを発光させるんだそうだ」
鳴海が水槽に影を作ると、言うとおりゾルゲクラゲは意外に明るく光りだす。きもちわるいっ。
海中の無脊椎生物というのはどうも嫌だ。形がいびつだ、愛嬌がない、考えていることがわからない。背中に入れられるときっと悲鳴をあげる。こういうのが好きな奴はきっと性格がゆがんでるわ。
「で、これって価値あるの?」
「ある。まず存在自体が珍しい。何しろ世界に四匹だから。それにクラゲの飼育っていうのが静かなブームでね、意外にマニアがいる。その上このゾルゲクラゲ、持っていると幸運を呼ぶと言われてて、これまでの持ち主は皆、こいつを手に入れてから事業に成功してのし上がってる」
「その割にはあの南方さん、不幸続きな上にとどめとばかり娘さんが死んじゃったみたいよ」
あたしがつっこむと鳴海は気にせず勝手に話しだす。
「ゾルゲクラゲには他にも色々伝説というか、神秘的な言い伝えがあってね。そのひとつにゾルゲクラゲの消失という話があるんだ」
「はい?」
「ゾルゲクラゲが幸運を呼ぶというのは言ったね。逆に言うとゾルゲクラゲがいなくなると不幸になる。もし飼い主に近々不幸が訪れるようなら、ゾルゲクラゲは突然水槽から謎の消失をして、またふいと戻ってくるという現象を起こすんだそうだ。地震の前に反応するナマズみたいなものと思えばいい。また時には飼い主を殺すこともあると言われる」
「へぇ?」
「適切に飼育しなかったり粗末に扱ったりするとゾルゲクラゲは機嫌を損ね、祟りめいた現象を引き起こすんだそうだ」
「そりゃ愉快な話ね」
あたしたちがそうやっていると、担架に乗せられた死体が二階から運び出されていく。鳴海が呼び止め、顔を隠していた布を少しめくった。
南方笹子。晴六さんのひとり娘だ。聞いたところ年齢は二十一歳。しとやかで日本人形みたいに整った顔をしていた。木陰でそっと芥川龍之介の文庫本とかめくってるのが似合ったかもしれない。短い人生だったね、かあいそうに。
鳴海は彼女の両手の指に注意を向け、あたしに言った。
「爪に血がついている」
よくわかんないけどうなずいてみせた。
「警部」
羽丘刑事が革張りのシステム手帳を片手にきりりとした顔で後ろに立った。鳴海は、もういいよ、と死体を送り出すと部下の方へ対照的にお気楽な表情を向ける。
「状況は把握できたか?」
「かなり妙なことになっています。ゾルゲクラゲとか瞬間移動とか」
鳴海は形のいい顎をつまんで変に様になるポーズを作った。
「そこをなんとか簡単明瞭に説明してくれ。このお嬢さんにもわかるように」
彼女は言われるとあたしをじとっと見た。
「警部、まさかこの娘にわざと解決させて結婚話を潰そうとしてませんか?」
「だめかい?」
「一課が素人に出し抜かれるなんて、いい笑いものですよ」
「羽丘、お前はそんなに私を結婚させたいのか」
「はい。それでとっとと刑事やめてください」
勝手に二人で言い合うのであたしはパンと手を叩いた。
「余計な気遣いはいらないわ。こんなやつ実力で簡単に出し抜けるもの! それでおじい様をしおしおにしてやるんだから!」
羽丘刑事はなぜだかため息をついた。むむ、あたしのことを軽く見てるな。今に驚かせてやるからね。
「とにかく事件の経過と、これまでにわかったことを話してくれ。容疑者も少ないようだし、今日中に片付けちまおう」
鳴海はおそろしく面倒そうな口調で言った。やる気あんのか。
事件の概要を簡単にまとめよう。始まりは二週間前。晴六さんが会社の浮沈を左右する大事業に着手しだしたことだ。事業内容はうざったいので省略。ビル一個建てたらなぜか三個分のお金になると思いねぇ。大人の世界はちょっくら汚くて不思議がいっぱいなんだから。
それで晴六さん、普段は強気なんだけど今回ばかりは弱気になった。儲けは大きいけどリスクも大きい。これまでのやり方が通用するかどうか。それでおまじないや神がかりに頼りたくなった。ちょうど知り合いの社長が亡くなり、二匹のゾルゲクラゲが手に入ったというのも大きい。ゾルゲクラゲは福の神、それが二匹もいるんだから事業は成功間違いなし。一転して大船に乗った気になった。
ところがどうして、世の中うまくいかない。今から一週間前、クラゲにまつわる謎めいた事件が起こった。
その日邸にいたのは晴六さん、笹子さん、それに晴六さんの秘書の新田信二、あとは使用人が四、五人。午後八時過ぎの出来事である。晴六さんはいつもどおり水槽にクラゲのエサをまき、リビングを出ようとした。すると後ろから笹子さんが、
「クラゲが一匹いなくなっていますけど、お父様、どうされたんですか?」
と声をかけた。振り返るとなんということでしょう、つい十数秒前までたわんでいたクラゲが一匹、水槽から消失している。リビングにはその時笹子さんがひとり。慌てた晴六さんは娘が何かしたと疑った。そりゃ水槽のそばにいたのは彼女だけだもの。わずかな時間でも、水槽に手を突っ込んでクラゲを取り出しポケットにしまうくらいならどうにかなる。
父親は娘を部屋から一歩も出さず身体検査を行った。疑い深く女の使用人を呼んで下着の一枚から残らず調べさせたけれど、これが見つからない。使用人とぐるじゃないかとそちらも調べたけどこれもアウト。リビングのどこかに隠したのではと絨毯をめくり、床板まではがしたけど、ぜんぜんダメ。
晴六さんは激昂して娘を問い詰めた。でもどんなに調べても隠し持っているのを発見できないし、笹子さんも父親のあんまりの仕打ちに泣きだすばかりだ。あわや家族の崩壊、っていうところだったが秘書の新田さん(二十八歳のいい男だった。かなり使える奴らしい)が取りなして一時は事なきを得た。
それで終わればよかったんだけど、もひとつおまけが着く。ゾルゲクラゲが出現したのだ。晴六さんは水槽をなごり惜しそうに見てリビングを出ようとした。そしたらまた笹子さんが後ろから、
「お父様! クラゲが現れました!」
この間これまた十数秒。笹子さんはこの時恐怖と驚きのあまりか、真っ青な顔をしていたそうだ。振り返った晴六さんは水槽の中に二匹のゾルゲクラゲを発見した。ただし一匹はすっかり弱り、水の中でかしいで浮いていた。消失から三十分と経たない時間に起こったことだ。そいつは朝を待たずに死んでしまい、晴六さんは幸運がひとつ逃げたと事業の成否にたいへんな不安を抱えちゃった。最初から縁起をかつぐなんて弱気だから余計ダメージを負っちゃうのだ。
そして時は今日になる。邸には晴六さん、笹子さん、新田さんの三人と使用人三人。晴六さんと新田さんは朝から書斎で例の事業に関するミーティング。なぜ会社でやらないかというと、会社的にもやばい情報を扱う話だったから。笹子さんは自室で卒業論文の準備にいそしむということだった。
午後六時過ぎ、晴六さんはクラゲにエサをやろうかとリビングに入った。けど水槽にゼラチン野郎のクラゲさんはいなかった。三十分前にたゆたっているのを確認してる。晴六さんは真っ青になってその場で腰を砕いた。新田さんが隣にいたからかろうじて泣くのを我慢し、どたどた床を鳴らして二階の娘の部屋に直行する。前回のことを考えても娘はやっぱり疑わしいってわけだ。
ノックもせずにドアを開け、どう問いただしてやろうかと唇を湿したが、そんなことは無駄になった。笹子さんは部屋の中央に倒れていた。そばに濡れたガラスコップが転がっていた。晴六さんと新田さんは何があったかと彼女の体を抱き起こしたが、その時世にもむごいものを見た。
笹子さんの白く長い喉には必死で掻きむしったかのような縦長の爪傷がいくつもつき、赤黒い血をにじませていた。それだけじゃない。笹子さんの喉は内側からぼうっと光っていたのだ!
「喉が光ってたって、どういうこと?」
羽丘刑事にその光景を説明され、あたしは聞き返した。彼女は職業的な調子で答える。
「被害者の喉にゾルゲクラゲが詰まっていたんです。つまり、それです」
あたしたちの後ろの水槽を目で示す。殺人の凶器となったゾルゲクラゲはぶよぶよ漂っていた。
「南方晴六さんは光る喉に驚いたものの、すぐに被害者の口をこじ開けて喉の奥からクラゲを取り出そうとしました。かなり奥に詰まっていて最終的にはペンチを持ってきてどうにかつまみ出しましたけど、被害者はすでにこと切れており、新田信二さんによって病院と警察に通報されました」
「死因はやはり気道閉塞による窒息死か?」
鳴海が刑事らしい発言をする。
「解剖を待たないと断定できませんが、検死ではそう判断されています。喉の外傷、爪の血痕などの所見からして間違いないと思われます。死亡推定時刻は午後六時前後」
なるほど。笹子さんはゾルゲクラゲを喉に詰まらせ、もだえ苦しみ喉をかきむしって死んじゃったってことか。喉が詰まっちゃ悲鳴も上げられない。家人が気づかなかったのもおかしくない。
鳴海は足を返して水槽を覗き込んだ。喉から引っ張りだされたクラゲは水槽に戻され、まだなんとか生きてる。さすが謎のクラゲ、しぶとい。
「瞬間移動がどうとか言ってたのはなんだ?」
「それは南方氏の妄想と言うか、思い込みにしか過ぎません。一匹目のゾルゲクラゲが消失した経緯はテレポーテーションしたとしか説明がつかないと言って。そして今回のお嬢さんの窒息死です」
鳴海がついさっき言っていたことが思い出された。不幸の訪れの前にゾルゲクラゲは謎の消失をする。時には飼い主を殺したりもする。
「クラゲが気道にテレポートしてきた、か。そうだな。でなければクラゲを喉に詰まらせて死ぬなんてことはなさそうだ」
鳴海は呟くと話を変える。
「被害者の父親は今どうしてる?」
「精神的にかなりショックを受けているようです。娘さんの死もありますが、それより幸運を呼ぶというクラゲに裏切られてすっかり会社経営に妆Ρεを失ったみたいです」
鳴海は息をついてリビングのソファに身を投げ出した。
「南方笹子さんが殺される心当たりは?」
「今のところ出ていません。ただし使用人達の話によると父子関係は良くなかったとのことです」
「原因は?」
「母親の死が関係しているそうです。被害者の母親は十年前に心不全で他界しているのですが、南方晴六さんとの間に私生活上の問題があって、その心労から亡くなったと言われています。被害者はそのことで父に悪感情を抱いていて、父も娘がそうでは軋轢が生じて当然です。また南方さんの会社経営も悪辣との噂が絶えず、潔癖な性格の笹子さんはそれも嫌悪していたようです」
クラゲが消えた時、晴六さんがまっさきに娘を疑ったのはそういう人間関係があったのか。頭に入れておこう。
「ね、秘書の新田って人はどうなの?」
羽丘刑事は眉を寄せた。あたしは自分の洞察を語ってみせる。
「かなり切れるタイプに思えたけど、ああいうのに限って忠誠心が乏しいのよね。ある会社がおっきな事業に手を出したってことは、他の会社には脅威になるわ。当然、内部情報が欲しくてたまらなくなる。こういう時ライバル会社は中枢の人間を籠絡しようとするでしょ? おじい様が言ってたわ。頭が良くて有能な奴ほど寝返りやすいって。計算できるし出世欲もあるから簡単に釣れるの」
「南方さんは新田さんを信頼されています」
冷たく言い返される。言葉づかいは丁寧だけど、小娘と思ってバカにしてるな。
「偉くなった人間ほど足元が見えなくなるものよ。十分な給料をもらってたか、労働条件はよかったか、南方晴六さんはサポートする価値のある品性の持ち主か」
羽丘刑事はあたしを無視するみたいに手帳をめくり、ソファでくつろぐ鳴海に向いた。
「南方さんの評判はあまりよくありません。使用人は給与面での不満を漏らしていますし、時間を問わず大した用もなしに社員を呼び出すなど、部下を大事にするタイプではないようです。新田さんも引き抜き工作に会っていれば情報漏洩等の裏切りを行う可能性はあります。ただし、新田さんは被害者と生前交際があったようです」
むっ、色恋沙汰は殺人動機の定番ね。鳴海も興味を持ったのか足を組み直した。
「その情報の出所は?」
「被害者の部屋を調べた結果です。数枚ですが被害者と新田さんの二人が旅行に行ったと思われる写真が発見されましたし、彼女の手帳のスケジュール欄に赤で『新』という印がいくつもついています。社長令嬢と交際があったとなると、他社への裏切りの可能性は低くなるのではないでしょうか」
「断定できないわよ。二人の仲が冷えてたかもしれないし、笹子さんは父親の仕事を嫌ってたんでしょ? 揃って仲良く南方さんを破滅させようとしてもおかしくないじゃない」
あたしの反論に羽丘刑事は食いつかない。なによ、こいつ。あたしの言ってることは間違ってないわよ。
鳴海は鼻の頭をひとさし指で押さえた。
「新田本人に確認はとったか?」
「カマをかけたらあっさり認めました。でも一瞬だけ、こちらがどれくらい情報を握ってるか推し量る心の動きというか、そういうものが感じられました。あくまで私の印象に過ぎませんけれど」
「上出来だ。邸にいた人間のアリバイは?」
「使用人は三人一緒に行動しており、共犯の可能性を除外すればアリバイは成立します。一方南方さん、新田さん共に単独で被害者の部屋を訪れる機会はありました。邸の状況からして外部からの侵入者の可能性はありません」
鳴海がふむ、と言って黙り込む。あたしは立っているのに疲れたのでその向かいにぽんと座った。
鳴海が何かに気づいたのか目尻を上げる。
「スカートの前を押さえろ。パンツが見えてるぞ」
「あっ! なんでそういうとこ目ざといのよ!」
あたしは慌ててスカートを押さえた。もう、男ってどうしてこうなの?
「小娘扱いされたくなかったらイチゴ柄はやめた方がいいな」
殴ってやろうと身を乗り出したら、羽丘刑事が鳴海の後頭部をシステム手帳の角で張り飛ばしていた。わざわざ角を使うなんて、やるな、この女。
「羽丘、なんでお前に殴られなきゃならんのだ?」
「職務中です。小娘からかって遊ぶのはやめてください」
だから小娘あつかいするなっ。たぶんあんたより胸はおっきいぞ。
「さて、情報もだいたい出そろったことだし、問題点をまとめてみようか」
鳴海は殴られた後頭部をさすり、羽丘刑事を無理矢理ソファに座らせるとそう切り出した。バックでは水槽のエアーがしゅわしゅわ鳴り、クラゲが揺れている。
「謎は大きくわけて二つある。ひとつは一週間前に起こったゾルゲクラゲの消失。水槽のそばには笹子さんがいただけ。超自然の力が働いていないとすれば、彼女がどうにかしたはずだ。羽丘、何か方法は考えつくか?」
「ゾルゲクラゲはそう大きなものではありません。南方さんが背を向けた瞬間にハンカチにとってポケットにしまうくらい簡単だと思います」
「その後の身体検査、部屋の探索では見つかってないな」
「調べ方がずさんだったか、うっかり見落としたんでしょう」
安易なこと言うわね。真面目なやつってこれだから。
「じゃあ謎その二。なぜ南方笹子さんはクラゲを喉に詰めて死ぬなんていう常識はずれの災難に遭ったか。こいつは祟りとかまじないとか超自然なものを感じるな。言い伝えにある通り、ゾルゲクラゲはテレポートして・・・」
「警部。凶器、現場の奇異に単純な事実を見失ってはいけません。方法はどうあれ、被害者は殺されたんです。犯人は彼女を押さえつける、あるいは薬をかがせるなどの手順を踏み、喉にクラゲを押し込んだんです。容疑者はたった二人。動機はまだ確定できないといえ、地道に攻めていけば遠からず真相にたどり着きます」
鳴海は唇をへの字に曲げた。
「羽丘、お前は真面目すぎるぞ。不可思議なクラゲの消失、クラゲが詰まって喉を光らす怪奇な死体。ついでに被害者は見目麗しい社長令嬢。戦前の悪趣味な探偵小説のようなこの現状で、どうしてそういう意見を言う」
こいつはやっぱり警部として問題ありだ。
「たまには『嗚呼、なんということでしょう! 神秘の水母の妖しげな発光に誘われ、いかな魔がこの地に降り立ったのでしょうか! この水中の軟体の悪魔は人外の異力でテレポゥテェションに成功したのでしやうか!』くらいのことを言ってみせろ」
羽丘刑事は直属の上司を利き手のグーで殴った。
「今は戦前じゃありません、黒岩涙香も江戸川乱歩も逝去して長い年月が流れました。二十一世紀も近い現代でそんなこと信じる警官はいません。どんなクラゲの怪奇逸話があって現場がそれに符合していても、人間が散文的な手続きを踏んで実行したんです」
「じゃあさ、どうして笹子さんは突然出現したクラゲを見て顔面蒼白になったの? ふりや演技で顔色まで変えるのは難しいわよ。それに今夜の事件、なぜ犯人はそんなおかしな殺人方法を選んだの?」
税金でどつき漫才をやられても仕方ないのであたしは意見を述べた。
「殺すだけなら殴る、刺す、紐で絞める、もっと簡単な方法があるじゃない。女刑事さんの説をとるなら、わざわざ犯人は水槽からクラゲを持ってきて被害者の自由を奪い、口をこじ開けてクラゲを放り込んで、喉にひっかき傷がつくくらいもがき苦しませて殺したってことでしょう? その上邸は一種の閉鎖状況で容疑者はたった二人。超自然現象に見せかけても誰も信じないのよ、犯人にしたらいいことなしじゃない。かっとなって殺したにしては手が込みすぎてる。方法といい場所といい、まともな殺人犯の選択じゃないわ、無茶苦茶だよ。常識的な見方じゃ解決できっこない」
羽丘刑事はしれっと言った。
「しかし事故や自殺でクラゲが喉に詰まるとは考えがたいでしょう」
うーむ、それもそうなのよね。
「あ、そうだ。死体のそばにコップが転がってたんでしょ。それって何?」
「もともと何が入っていたか不明ですが、証拠物件として押収した時点では内側に水滴が付着していただけです。縁に被害者のものと思われる口紅の痕跡が認められたので、死の直前に使用したと推測されます。指紋は笹子さんのものしか検出されていません」
さすがにあたしは考え込んだ。あせっちゃいけない。事件の内容が特別であればあるほど、実は真相にたどり着きやすいのだ。特別な状況を発生させた何か。それがわかれば全ての状況証拠が一個の絵を作り上げ、起こったことをあまさず教えてくれる。
一週間前クラゲはどうやって消失させられたのか。あたしはもちろんクラゲの超自然な能力なんて信じない。そばにいた笹子さんが何かやったのだ。父親への嫌がらせっていう動機がちゃんとある。でも彼女は十分な身体検査をされてる。見落としなんてご都合主義だ。そして三十分後にクラゲは生きたまま出現している。この時笹子さんは明らかに顔色を変えている。どうしてだろう。彼女がやったなら怖がることも驚くこともないのに。
あたしが必死に頭を回転させていると鳴海が抜けたことを言いだす。
「現場に到着して一時間もしないちうちにやることがなくなったな」
あんたは最初から何もやってないじゃない。
「お嬢さん、少しは見当がついたかい。きみの頭脳に私達の未来はかかってるんだから」
「ちょっと待って! せかさないでよ!」
あたしはリビングを見回す。誰にも見つからない隠し場所、そして隙あらばすぐに取り出せる場所。どこかにそんなのある? ソファの影、照明の裏、水槽の下? 違う、きっと盲点なんだ。そしてこの答えが今日の事件にもつながってくるはずだ。
必死で探しても見つからない場所。どこよ、クラゲが弱っても生きてられるなんて。どうして笹子さんは顔色を変えたの? あたしだったらどんな時顔色を変える? おじい様から鳴海との結婚話を聞かされた時は真っ青だったかもしれない。心理的な動揺だ。他に何かある? えーと、あれ、ちょっと待って、何か思いつきそう・・・。
「あ、ひょっとして!」
あたしは叫んで立ち上がった。最近本で読まなかった? そうだ、もしあの方法が使われたとしたら? すごい、全部の証拠が当てはまる。そうだ、なぜクラゲが凶器なのか、なぜあんな死因になったのか、これで説明つくじゃない!
「わかったわよ、鳴海清隆! 事件の真相がひらめいちゃった!」
羽丘刑事が疑わしい目をしている。鳴海は珍しいおもちゃを手に入れたみたいな表情をしている。
「皆を集めて解決編を仕切れるか?」
「もっちろん! 美少女名探偵に任せてっ!」
「警部、そんなことしたら警察の面子が・・・」
「いいじゃないの。これで結婚話が流れるならそれに越したことはない。羽丘、ここに関係者を集めてくれ。美少女名探偵とやらの活躍を拝見しようじゃないか」
解決編(ガンガン11月号発売日更新予定)へ続く